令和の深層心理学入門

「深さ」とは何でしょうか?深くあることにいかなる価値があるのでしょうか?それはもしかしたら、「深さ」よりも「速さ」の方に価値を置く現代においては、時代錯誤的な問いに見えるかもしれません。
しかし、「深さ」は現代においても、実は切実です。というのも、パートナーにしても、家族にしても、同僚や仲間、友人、そして共同体単位でも、他者との「深い関係」があらゆるところで問題になっているからです。人は孤独になると、深さを必要とします。
かつて、「深さ」が一世を風靡した時代がありました。1980年代から90年代にかけて、つまり日本が豊かだった頃です。この頃、人々は自分の中の深さに気がつき、夢中になりました。自分探しが流行り、心理テストがブームになりました。心の深いところを語る心理学、深層心理学が社会の関心を集めたのです。
人々はフロイトやユングの描き出す心の深さに魅了され、心の奥底に自分の知らない自分がいるのではないかと胸を膨らませました。この時代に「物は豊かになったが、心はどうか」と、誰よりも魅力的に心の世界を語ったのが河合隼雄でした。
しかし、いつの間にか深層心理学は退潮していきました。21世紀に入り、日本は貧しくなり、社会は不安定になり、誰もがサバイブすることに必死になったのがその理由だと思います。心の深層に目を向けるよりも、目の前の現実に対処することの方が切実な問題になったということです。
河合隼雄の言葉をもじれば、「リスクは豊かになったが、心はどうか」という問いかけが響いているのが現代です。そのとき、「深さ」よりも「速さ」が必要とされることでしょう。
だけれども、実は「深さ」は心の臨床の現在にあっても、重要な問題であり続けています。たとえば、僕らは相変わらず、夢を見ますし、「わかっちゃいるけど、やめられない」行動をとり続けます。何度も同じような形で他者と決裂してしまいます。自分の心の奥底に、謎の脚本が埋まっているかのようです。そういうときに、自分の心の深いところを覗きこむことが必要になる。
そこで、今もう一度、心の深さについて考えてみようと思います。そういうタイミングが来ていると思うのです。個人の孤独が深まり、社会の分断が深まる時代であるからです。
そういう時代に、心の深さを考えるとは、複雑な自分を発見することであり、正義の複雑さを知ることであり、複雑な他者を想像することにほかなりません。
深い心とは他者のための場所がある心であり、寛容な社会とは深さの残る社会のことです。孤独が深さを必要とするとは、そういう意味です。
ですから、この講義では、心の深いところを探検してみようと思います。
フロイトとユング、フロイト以降の精神分析と河合隼雄の深層心理学を取り上げて、心の深層はどのようにできているのか、そこにはいかなる傷つきや物語があるのかを見てみましょう。夢や神話、愛や憎しみ、トラウマや幽霊、そして私たちが子どもだった頃の心が、ウヨウヨしている薄暗い世界を見にきましょう。
さあ、深層心理学に入門してみようじゃありませんか―
ー スケジュール ー
2025年5月~2026年2月 金曜日 19:30~21:00
2025年
5月16日(金)第1回:深層心理学の時代と社会―森の恐怖から心の謎へ
7月18日(金) 第2回:フロイトの深層心理学―夢は無意識の王道
9月19日(金) 第3回:ポスト・フロイトの表層心理学―偉大な浅さ、ときどきアドラー
11月21日(金) 第4回:ユングの深層心理学―私には影がある
2026年
2月20日(金) 第5回:深層心理学の行方―河合隼雄と物語を生きること
各回の詳細につきましては下記をクリックしてご覧ください。
ー 開催概要 ー
形式:Zoomを使ったオンライン形式(1か月の見逃し配信あり)
参加費:
・全5回リアルタイム参加(アーカイブ込)12,000円(税込)
・各単回リアルタイム参加(アーカイブ込)3,000円(税込)
・全5回後日視聴(アーカイブ)12,000円(税込)
・各単回後日視聴(アーカイブ)3,000円(税込)
※後日視聴は各回終了後1週間以内に視聴方法をご案内いたします。視聴期間はご案内後各回1か月間となります。
定員に達し次第各チケットは販売終了となります。
ー お問い合わせ先 ー
STCセミナー事務局:seminar@stc-room.jp
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